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前橋地方裁判所 平成7年(ワ)414号 判決 1997年2月18日

主文

一  被告らは、原告に対し、それぞれ金二五万円及びこれに対する平成七年七月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告のために、「都市計画(時東・中島)だより」に別紙一記載の「謝罪文」と題する文章を一回掲載し、かつ、右謝罪文を掲載した「都市計画だより(時東・中島)」を、平成七年一月末日現在における「都市計画(時東・中島)だより」の配布対象の居住住民及び区域外地権者の全員に郵送せよ。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

一  被告らは、原告に対し、それぞれ金一六五万円及び右各金員に対する平成七年七月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、

1 「都市計画(時東・中島)だより」に別紙二記載の「謝罪文」と題する文章を一回掲載すると共に、

2 原告のために、本判決確定の日付をもって、右謝罪文を、平成七年一月末日現在における「都市計画(時東・中島)だより」の配布対象の居住住民及び区域外地権者の全員に郵送せよ。

第二  事案の概要

本件は、被告甲野太郎(以下「被告甲野」という。)が新春座談会でした発言(以下「本件発言」という。)を掲載した広報誌によって名誉を毀損されたとして、原告が、被告甲野及び右広報誌の実質的発行責任者である被告富士見村に対し、損害賠償の支払と謝罪文を掲載した広報誌の郵送による配布を求めたという事案である。

一  争点

1 被告甲野は、本件発言に関して不法行為責任を負うか。

2 被告富士見村は、右発言の広報誌への掲載等に関して不法行為責任を負うか。

二  争いのない事実等

1 当事者

(一) 被告甲野は、平成七年四月三〇日まで富士見村議会議員であり、かつ、同村議会議長の職にあったものである。

被告富士見村は、富士見村区画整理事業の事業主体である。

(二) 原告は、平成三年九月二日に被告富士見村に組織届を提出している団体である。

2 被告甲野の本件発言の経緯

(一) 平成六年一二月三日、富士見村役場内で、次の者が出席して「新春座談会」が開催された。

出席者

村長 鈴木一英

村議会議長(推進協議会長) 甲野太郎

建設常任委員長 大久保要

小暮地区実行委員会会長 阿部和久

同副会長 福田君雄

同 横山光廣

小暮地区環境研究会会長 金井実

都市計画課長 長谷川功

司会 広報委員長 小林友保

(二) 右「新春座談会」は、平成六年に小暮地区土地区画整理事業について、都市計画道路・事業区域・事業計画等の知事の認可があり、いよいよ準備段階から実行の段階に入ったとの認識の下で開催されたものであったが、同座談会の席上、被告甲野は、出席者に対し、左記の発言をした。

「えーえ、いいですか。どうですか、その民主化研究会のまあ、幹部の人達は、ああ、当然この都市計画事業というものを理解しておるんだと思うけれども、どうですか。現場のまあ、現場っていっちゃ悪いけど、直接皆さん方は、ああ、永いこと、おお、その反対の人達ともおつき合いした中で、皆さん方の考えで本当にこの説明会や何かにも一つもでてきないで反対している人は、事業を本当に理解しているんかねえ。まあそのへんの所もむしろ皆さんにお聞きしたいような気もするんだけれども、それでまあ上に立つ人達が、俺たちにまかせろ、まかせろ全部とおしてっていってくれるけれども、じゃあ、いろいろの理解してねんだらあ、説明会をぶったっていんだけどそれを集めてくれるんだがな、ただ、こんだ説明に出てげば、ただ、その人達をつるし上げるようなことべえしてるんじゃあ話し合いしろしろ、なにしろったってどうしょうもねえやいねえ。

全く、だから、だから、ちょっと聞けば、じゃあもし反対の人達は、家を動かすにゃあ補償費が、ああ、でねえで自分がだすんだんべとか、なんだとかそういうあれはねえわけなんだから、こういう事業の内容そのものをよく理解してねえで、ただ反対しているんかなあなんて思われるところが、ほかにもあらいねえ。」

(三) 被告甲野の右発言は、左記のとおりに要約されて「都市計画(時東・中島)だより第一四号、平成七年一月一〇日」(以下「たより第一四号」という。)に掲載され、同たよりは、それまで発行された「都市計画(時東・中島)だより」(以下「たより」という。)と同様に、小暮地区居住者並びに地区外地権者に手渡し又は郵送で配布された。

「反対している人達は事業を本当に理解しているのだろうか。理解していないのであるならば、説明会をしたっていいのだが、幹部の人達は俺たちにまかせろといって会議にも出させない。

また、聞くところによると幹部の人達は、家を動かすのは補償費が出ないで、自分で負担しなければならないと言っているんですね。そう言うことは絶対にないのだが、事業の内容そのものを理解していないだけでただ反対しているのかなと思われる。」

三  原告の主張

1 被告甲野の本件発言は、全く事実無根の事柄であると同時に、発言全体が原告に事実無根の誹謗を浴びせ、原告に信頼を寄せている小暮地区住民にあたかも原告が不勉強で無理無体を言っている団体であるかのような印象を与えようとしたといわざるを得ない悪意の中傷であることは明らかである。

被告甲野は、右発言が「新春座談会」の出席者、さらには同発言が「たより」に掲載されて配布され多数人に周知されることを承知の上で行ったものであり、公然原告の名誉を毀損する不法行為(民法七〇九条)をしたものである。

2 被告甲野は右発言の際、富士見村議会の議長の職にある特別職公務員であったのであり(富士見村議会の議長として地方公務員法三条三項四号、あるいは、富士見村区画整理事業推進連絡協議会会長として地方公務員法三条三項二号)、右発言を行った「新春座談会」への出席は村議会議長、同推進連絡協議会会長の公務としての出席ともみられるから、その場合は、被告富士見村は被告甲野の前記原告に対する名誉毀損発言について国家賠償法一条一項に基づき責任を負う。

右被告甲野の発言が掲載された「たより第一四号」には、「発行 小暮地区実行委員会会長阿部和久・編集 小暮地区広報委員会」と記載されているが、その実質の編集・印刷・発行・配布等の管理運営は、被告富士見村の区画整理事業の主管課である同村都市計画課が行っているものであり、その発行責任は被告富士見村が負っているものである。

したがって、被告富士見村は、特定の団体である原告の誹謗を内容とする前記被告甲野の発言を「たより」に掲載するに当たっては、その発言の内容に当たる事実の存否を独自に確認するなどの取材確認義務を負うというべきであるのに、これを怠り、漫然何らの取材・確認も行う事なく(原告に問い合わせすることすらしなかった。)、原告に対する一方的な誹謗中傷である右発言をそのまま「たより」に掲載し、配布してしまったものである。なお、区域外に居住する地権者には、村の封筒で都市計画課と明記された封筒を用いて「たより」が郵送されている。

以上により、被告富士見村は、「たより」の編集・印刷・発行・配布等の管理運営を実質的に行うものとして、「たより第一四号」に前記発言をその真否を確認することなく掲載し配布した自己の行為に対して、不法行為責任(民法七〇九条)を負うものである。

仮に、「たより」は小暮地区実行委員会が発行するものであって、原告に対する名誉毀損記事の掲載の責任は一次的には小暮地区実行委員会に発生するとしても、同実行委員会は被告富士見村が事業主体となる富士見村小暮地区の区画整理事業の計画推進のために被告富士見村村長による実行委員の委嘱を受けて平成六年八月二一日に組織された団体であって、同実行委員会による「たより」の発行も、被告富士見村の右区画整理事業の「事業の執行に付き」行われているものである(仮にそうではなくても実行委員会事務局を兼任する被告富士見村職員が本件発言を掲載することを実質的に実行しており外形的に被告富士見村の都市計画課職員職務として行ったものである)から、被告富士見村は民法七一五条(使用者責任)により前記原告に対する名誉毀損記事の「たより」への掲載、配布という不法行為に関して、使用者としてその責任を負うというべきである。

3 前記のとおり、本件名誉毀損発言が、公的な職にある者の発言として区画整理の事業について実質的に公的な性格を有する配布物に印刷され、現実に区域住民に配布されてしまった現実に照らせば、被告甲野及び同富士見村に損害賠償を命ずるだけでは原告の名誉の回復としては不十分であり、謝罪文の掲載・交付(郵送)を命ずることが不可欠である。

また、本件名誉毀損により原告が被った原告の社会評価の毀損に対する無形の損害の賠償はそれぞれ一五〇万円(合計三〇〇万円)をもって相当とする。

原告は、原告訴訟代理人に本件訴訟の遂行を委任し相当額の報酬の支払を約したが、右報酬額は三〇万円とするのが相当である。

四  被告甲野の反論

新春座談会における被告甲野の本件発言は、団体としての原告について述べたものではなく、「反対の人達」、「幹部の人達」について述べているものであり、原告について、誹謗したり無理無体を言っている団体であるかのような印象を与えようとした趣旨の内容のものではない。

また、被告甲野が実際に発言した「反対の人達」という表現が「たより第一四号」では「幹部の人達」という記載に変わっているが、これは被告甲野の関わらない広報委員会の編集作業の過程での出来事であり、被告甲野がその責任を訴求されるいわれはない。

なお、家の移転に際してその補償金が出ないことの問題については、小暮地区の区画整理の話が出始めた平成二年ころから、地権者等の関係者の間で、家屋の移転の補償の問題が取り沙汰されて、家の移転に際して十分な補償がなされず、家屋を移転する該当者の人達の負担が生じたり、また、その負担が大きくなるのではないか等の風説が流れて、関係者の間で疑問や不安が抱かれていた。被告甲野の発言は、右のような家屋の移転に際してその補償金が出るか否かについての疑問や不安を抱いていて区画整理に反対している人達が存在していたことを踏まえてなされたものである。

以上のとおり、被告甲野の発言は、原告を対象としてなされたものではなく、また、その内容も事実関係に沿うものであり、原告の名誉を毀損するものではない。

五  被告富士見村の反論

被告富士見村は、「たより」の発行者、発行責任者ではないし、その編集者でもない。「たより」の編集、発行、配布等は、小暮地区実行委員会で行うものである。「たより」が、富士見村都市計画事業の推進団体である小暮地区実行委員会の広報誌であることから、被告富士見村は、事務的に印刷と郵便による配布を行っているのみである。地区内の地権者には、実行委員会が手渡しで配布している。

「たより第一四号」は、被告富士見村の職員が座談会のテープの反訳作業を行ったが、座談会出席者の発言の取捨選択要約は、小暮地区実行委員会広報委員会で行われているものであり、職員の反訳作業に問題となるような行為はない。広報委員会の会議の時、被告富士見村の職員が二名くらい立ち会うが、コピーなどの機械的補助的作業を行ったのみである。職員は、原稿に基づき、ワープロで打ち、ある程度レイアウトなどするが、広報委員会が中心になり、編集するものである。印刷は、役場の中の機械と用紙を使用して行う。被告富士見村の職員の作業は、いわば、外注の場合における印刷業者の仕事にすぎない。

第三  争点に対する判断

一  被告甲野の責任

前記争いのない事実等記載のとおり、被告近藤は、新春座談会において本件発言を行っているが、《証拠略》によれば、右発言に関するその背景事情及びその後の交渉経過として、次の事実が認められる。

富士見村では、昭和五一年ころから、無秩序な乱開発を抑制し、自然破壊を防止し日常生活の安全、快適、利便性等の住環境確保を目的として都市計画区域の決定等がされ、区画整理事業の推進がなされてきた。そして、右区画整理事業を推進するため、富士見村都市計画推進協議会等の諸団体が組織され、小暮地区(時東・中島)では、平成三年六月、小暮地区準備委員会が設立され、さらに、平成四年一二月、その下部組織として小暮事業地区広報委員会が設立され、平成五年一月から小暮地区準備委員会発行名義の「たより」が発行されてきた。なお、その後、平成六年八月、小暮地区実行委員会及びその下部組織である小暮地区広報委員会が設立されるに伴い右たよりの発行名義も小暮地区実行委員会に変更になった。

原告は、平成三年九月二日、会員一五二名で発足し、同月一三日、富士見村村長及び議長に「富士見村小暮地区土地区画整理事業に関する要望書」を提出したのを手始めに、区画整理事業について納得がいかない住民の立場に立って、住民集会、区画整理審議会に対する意見書の提出等の活動を行ってきた。さらに、原告は被告富士見村に対し、機会がある毎に区画整理事業に関して話合いをしたいと文書で申し入れたが、話合いが実施されることはなかった。

右過程において、小暮地区広報委員会は、平成六年一二月三日、関係者による新春座談会を開催した。右座談会において、議長職の当て職として富士見村都市計画推進協議会会長も兼ねていた被告甲野は、本件発言を行ったものであるが、右発言に際し、同人は、「反対している人達」という表現を原告の幹部を指す意味で用い、出席者も同様の理解で受け止めた。なお、当時、被告甲野は、座談会の模様がテープに録音されていたことは了知していたし、座談会後に、都市計画課職員から座談会の発言内容が修正されて「たより」に掲載されることも聞かされていた。

その後、実施区域の多数の住民が、原告の元会長である市川金造方を訪れ、「今まで会を信じてずっと運動してきた者にとって、これは非常におかしいじゃないか」等の抗議をしてきた。そこで、原告は、平成七年一月一五日、被告甲野に対し、発言の取消しを要求し、その後、被告甲野方を二回訪問した後、同年四月一五日、文書で、抗議と記事訂正の再請求を行った。

その間、平成七年四月一二日、被告甲野は、原告会長宛「都市計画新春座談会の記事について」と題する書面にて、左記の経過事実をふまえて発言したことであり、記事を訂正したり陳謝する意思はない旨の回答をした。

1 平成三年一〇月一九日に貴会の青木保氏から曳家その他について補償が出ないという電話があった。

2 平成五年五月一六日に開催した女性を対象とした対話集会の参加者が「私の家に反対署名を求めにきた民主化研究会の人が補償が出ないと言っていた」との発言があった。

3 平成六年二月一二日に貴会役員が役場に来られた折(民主化研究会との話合い)に補償が出ないような意味の発言があった。

ところで、前記1の電話は都市計画課の事務局の長谷川功が受け、新春座談会後に、被告甲野に伝えたものであるが、その際、青木保が原告幹部であったかの確認はとっていない。なお、平成三年一〇月一九日当時、青木保は原告の会員ではなく、同人が会員になったのは平成四年五月八日のことである。

また、被告甲野は、前記2の発言も事務局から聞かされたものであるが、右発言の内容は伝聞であり、しかもそもそも右発言があったかどうかも明らかでない。なお、被告近藤は、その際、右発言の真否の確認をとっていない。

前記3の発言に関して、当時、被告甲野は、原告役員として、山上潤一郎のことを指して言ったが、同人が原告役員ではないことは後に原告代表者から聞かされた。また、そもそも山上は、前橋の区画整理地区の住民との雑談の中で「曳屋の際、家がガタガタになったけれど、その補償はなかったと聞かされた」と言ったものであり、前記発言とは異なるものである。

以上によれば、被告甲野の発言中「反対の人達」とは主観的にも客観的にも原告の幹部を指すものとして発言されていること、原告の幹部で前記趣旨の発言をしたという人物は見当たらないこと、右発言に際して、被告甲野は、調査、確認を何らしていないことが認められる。

そうすると、被告甲野の発言内容の真実性の証明はなされておらず、しかも、右発言内容は原告の幹部の人達が土地区画整理につき基本的な点も理解していないということを述べているものであって、幹部の人達の発言は原告の代表者ないしそれに準ずる立場の者として発言したものと受け取れるのが一般であるから、これにより原告の名誉は毀損されたといえる。

また、摘示事実の真実性が証明されない場合でも、それが真実であると信じたことにつき相当な理由があると認められるときは違法性が阻却されるが、右相当な理由があるといえるためには、右事実が単なる風評や憶測に依拠するだけでは足りず、それを裏付ける合理的な資料又は根拠がなければならない。ところで、被告甲野が、自己の発言が一応真実であると信ずるに足りる合理的な資料、根拠があって発言したと認めるに足りる証拠はないから、違法性も阻却されないというべきである。

したがって、被告甲野は、原告に対し、名誉侵害による不法行為責任を負うというべきである。

二  被告富士見村の責任

《証拠略》によれば、「たより」の編集、発行等に関して、次の事実が認められる。

小暮地区の区画整理事業の施工者は被告富士見村であり、右事業は被告富士見村都市計画課の所管である。

また、広報委員会の会議の主管も都市計画課であり、右会議には同課職員が常時二名くらい立ち会っている。そして、原稿依頼、集った原稿のワープロ化等は同課職員が行い、さらに、印刷は役場の用紙を用いて役場の印刷機を使用して行っている。また、郵送費用も被告富士見村が負担し、郵送手続も同村役場の職員が行っている。

なお、新春座談会においては、その模様を右都市計画課の職員が、村所有のテープを使用してテープレコーダーに録音し、反訳を行い、反訳文をもとに原稿を作成している。なお、本件において、被告甲野の発言のうち、「反対の人達」とあるのを「幹部の人達」と反訳表現したのも同課職員であった。

また、前記「都市計画新春座談会の記事について」と題する書面の起案も被告甲野ではなく同課が作成するなど、本件発言の掲載された「たより第一四号」に対する原告の抗議等に対する対応も同課が行っている。

そうすると、確かに「たより第一四号」には、「発行 小暮地区実行委員会会長阿部和久・編集 小暮地区広報委員会」という記載がみられるが、前記のとおり、その実質の編集、印刷、発行、配布等の管理運営は、被告富士見村の区画整理事業の主管課である同村都市計画課が行っているものであり、しかも、掲載内容に対する抗議の実質的対応も右各委員会ではなく同課が行っているのであるから、その発行責任は実質的には被告富士見村が負っているというべきである。

以上からすると、被告富士見村は、被告甲野の本件発言を「たより」に掲載するに際しては、その発言の内容に当たる事実の存否を確認するなどの取材確認義務を負うというべきであるのに、これを怠り、確認を行うことなく、しかも、右発言内容を「反対している人」から「幹部の人達」へとさらに対象を明確な形に変えるなどして、「たより」に掲載し、配布したことになる。

したがって、被告富士見村は「たより」の編集・印刷・発行・配布等の管理運営を実質的に行うものとして、「たより第一四号」に前記発言をその真否を確認することなく掲載し配布した自己の行為に対して不法行為責任を負うというべきである。

三  損害及びその回復措置

前記のとおり、原告は本件発言が掲載された「たより第一四号」が配布されたことにより、その発言内容が都市計画における土地区画整理の基本的理解にかかわるものであったため多数の会員から抗議を受けるなどその信用を失墜するなどの損害を被っていることが認められるから、被告らに対し、原告の名誉及び信用を回復するための適当な措置を求めることができるというべきである。

ところで、原告に対する名誉毀損行為は「たより」の配布により行われているから、被告らに対し、謝罪文を「たより」に掲載し、かつ、本件発言が掲載された「たより第一四号」が配布された当時である平成七年一月末日現在における右たよりの配布対象者全員に本件判決確定の日付をもって別紙一のとおりの謝罪文を掲載した「たより」の郵送を命ずることが原告の名誉及び信用を回復するための適当な措置であると認められる。

また、本件発言及び「たより」への掲載により原告が被った損害の状況、被告らの原告に対する対応等諸般の事情に前記のとおり謝罪文の郵送を命じたことを勘案すれば、原告の被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額としてはそれぞれ二〇万円(合計四〇万円)とするのが相当である。

さらに、弁論の全趣旨によれば、原告は本件訴訟を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用の支払を約束しているものと認められるが、本件訴訟と相当因果関係にある費用相当の損害金については、一〇万円とするのが相当である。

第四  結論

以上のとおり、原告の請求は、被告らに対し、謝罪文を掲載した「たより」の郵送を求める部分並びに慰藉料として金二五万円及び訴状送達の翌日である平成七年七月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口 忍 裁判官 高田健一 裁判官 藤原俊二)

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